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家族が遭難したら

6月中旬、義父が北アルプス南部の乗鞍岳で遭難しました。

運良く遭難翌日の午前中には発見に至り、両足首骨折、半月板損傷の大けがを負ったものの
命に別状なく助かる事が出来ました。





山を歩く全ての人に遭難は起きるもであると改めて実感した出来事であり、
遭難した本人も大変だけど家族がとても辛い時間を過ごします。

遭難した本人の生還エピソード、遭難の経緯は雑誌などで語られる事は多いけど
その家族がとった行動を知る事は殆ど無い気がします。
山に関わる者としてこの経験が今後何かの役に立てばと思い書き残したいと思います。

6月17日
15:30ごろ
妻の携帯に義母から義父が遭難したらしいとの連絡を受ける。
その時僕はミシンを踏みながら妻の話を話半分位で聞いていました、
忙しかったし、乗鞍で遭難なんてちょっと転んだ位にしか考えてなかった。
あのメジャールートだから誰かに助けてもらっているだろうと安易に考えていた。

16:00
作業がひと段落してたので義父に電話してみるが圏外のアナウンスが流れる。
仕方なく義母の電話すると、いつもの元気なトーンではない声に嫌な予感。

状況を改めて聞くと15時半に電話があり雪渓を滑落し、足首をねんざしたとの事。
大体の場所が位ヶ原山荘の上部200M位で有る為、山荘に連絡し所轄が松本警察であるため
そちらに連絡をする様に言われる。
松本警察からは救助隊が出動する旨を伝えられ、山荘からも人が出てくれるらしいとの事。

ここまでは全て義母が行動。

義母からある程度の状況を聞いたけど未だそんな大変な事だとは思えず
山荘が200Mなら何とかなるだろう程度。

18:00
義母と合流。
松本警察から携帯で位置確認をしたいけど捜索願いが出ていないと出来ない為、最寄りの警察署に行く様に言われる。

18:30
最寄りの警察署へ。
初めて知ったけど捜索願いは生活安全課なんですね。
警察署なんて普段行かないから当たり前の様に拳銃を腰に付けてる状況に困惑。

状況を担当の方に説明すると、第三者が携帯から位置を特定してもらうのは中々大変な作業な事を知らされる。
本人が110番すれば簡単みたいだが、携帯が繋がらない今となってはどうしようもない。
警察が個人の位置を調べるなんて朝飯前だと思っていたので以外だった。

担当の女性警官の方はとても親切にしてくれたので状況が好転しないイライラが和らぐ。

そんな中義父より着信。
義母は松本警察と電話中なので僕が出て状況確認。
命に係わるケガは無い事、食糧は有る事を確認。
スントの高度計からして滑落現場より200M下りた1,900M前後に居る。
沢を越えた事など、滑落現場からどの様に動いたかを把握。
電話と同時に地形図で確認したので大体の場所は僕でも把握出来た。

僕が把握してもどうにも出来ないので、一度電話を切って松本警察の方と話してもらう事にする。

僕の頭ではなんで下っているの?遭難の常識を無視した義父の行動に冷静では無い事が分かりました。
遭難した場所から2時間かけて下ってしまった事が今後色々な問題に繋がったのですから。

暫らくして松本警察から連絡があり、本人の大体の位置は把握出来た事、命に別状はない事。
既に日没なので本日の操作は打ち切りの旨を告げられる。

これから松本警察に来ても何も出来ないので明日7:00に来るように言われる。
もちろんこの警察署でも何も出来ないので一度帰る事に。

とりあえず松本に向かう準備。
警察の方に最寄りのホテルを紹介してもらい20:00過ぎに車で出発。
意味が無いと思うけど山道具一式を車に積む。

途中の中央道では雨が降っており、この状況で一人山に取り残されている義父の事を思うと
居た堪れない気持ちになる。
僕はビバークの経験はあってもルートも分からない場所で幕も何もない状況など味わったことがない。
雨の中、何もせず朝を待つ状況がどれだけ不安か想像するだけで辛い。

0:00
ホテルに到着。
ここから警察署まで車で5分程度なので7時前に出る事を確認し就寝。

6月18日
熟睡できない状態で朝。
外を確認すると雨は相変わらず降っている。

7時00松本警察署に到着。
昨日から担当してくれているTさんに挨拶。この方も女性。
時計がスントだから山歩きするんだな~なんて思う。
後にTさんが長野県警山岳救助隊の隊員だった事を山雑誌で知りました。

Tさんから今回の遭難の件は広報を通じて一応発表しないといけない事を告げられる。
あ~ニュースになっちゃうのか~
テレビで良く見るやつ、まさか親族がそうなるとは。
こんな事で事態の大きさが分かるのも皮肉なものである。

昨日からの状況と7:00から捜索開始を伝えられる。
昨日に引き続き天候が悪くヘリでの捜索は出来ないらしい。
昨日の夕方、山荘の方が捜索した時に義父の滑落現場が滑落跡から分かったそうです。
あ~なんで動いちゃったかな~と母と二人で突っ込む。

ここで唯一イラっとしてしまった、、
昨日は朝5時から捜索開始と聞いていたしこの時期5時は普通に明るいのに何で7:00出発なんだよ!
命に別状はないと言え、色々な状況が有るのかもしれないけど7:00は遅せーよと思ってしまう。
大変なのはすごく分かるけど家族の身からするともどかしい。
自分で捜索したい衝動に駆られてしまう。僕が行っても何もできず二次遭難だとしても。

しかしTさんは親身になって話を聞いてくれることが有りがたい。
義母が話す、「それ今どうでも良くない?」と思える話も聞いてくれる笑

予定では7:00に携帯の電源を入れて連絡取る事になっていたらしいが
電話が繋がらないとの事。
電源が切れたのか、それとも、、色々考えてしまう。
現場はドコモだけ電波が悪いらしい、、
携帯は数社持ちが望ましいと真剣に思う。現実無理だけど。

朝一の警察署はまるで高校の部活の様な声が響く。
ザース!ザース!体育会系丸出し。
あ~オレには警察官はムリだと思う。

窓が一つの殺風景な個室に案内される。
何故か子供用の自転車が一台置かれていた。
「ストーカー対策・・・」と剥しきれてないテプラが妙に生々しい。

重苦しいのでブラインドを開けると北アルプスの山々が見えた。


8:00過ぎ
救助隊が現場近くまで来ているとの報告。

8:50
無事発見の報告!
ひと安心。

命に別状がない事が分かると現実に戻ります。
救急車で病院に運ばれるの?病院は松本市内なの?
義父が駐車場に置いてある車はどうする?
何時ごろ帰れる?
帰って仕事したいな~
などなど現実的な問題が沢山。
沢山?沢と山で「沢山」 山で遭難し沢に滑落とは、、

この辺から緊張の糸が切れたので記憶が曖昧。

12:00ごろ
車が有る場所まで下山。
救助隊が持参してくれた暖かい物を食べている。
自力で歩けないが本人の意向で救急車で病院には行かず松本警察署まで来るとの事。

13:30ごろ
松本警察署に到着。
義父とご対面。
迷惑を掛けたので義母がビンタ。するかと思ったけど当然しない。
涙も無いのが気になるが、、
たった一日だけど義父の顔は疲れ切っていた。
生きていてくれて良かったと改めて思う。
上下のレインウエアは汚れ、丈夫そうなノースフェイスのゴアのパンツは破けていた。
捻挫した足首とぶつけた膝以外は問題ない。

歩くのは困難そうなので車の中で事情聴取。
四駆のパトカーかと思えば普通のプラドだった。

ここまで義父を運んでくれた救助隊員の方々にお礼を言う。
皆な若い。20代~30代前半
眉毛が皆細いのが少し気になる。
隊長らしき人が市原隼人似ていてかなりのイケメン。
遭難したのが女性でこの人に救助されたらきっと惚れるだろう。

そんな事はどうでも良いが、この方達が義父を背負って沢を渡り尾根を越えて救助してくれたのだ。
お礼の言い方が見つからない。別に普段から感謝の気持ちを伝え慣れてない訳ではなく、
上手い言い方が出てこないのである。

ここで初めて担当の女性警官が一番偉い人だと気付く。
皆が部長と呼んでいた。僕と同じ年位に見えるのだが。

部長ことTさんはこれまで僕らに接してくれた優しいTさんでは無く、
ピリッとした口調で義父の行動を問いただす警察官Tさんに変わっていた。
登山届の有無、アイゼンやその他装備の確認などを調書に記入していく。

アイゼンを持っていたのに使わない事、登山届を出していない事をチクチクいや的確に指摘される。
少々義父が不憫に思えるが仕方ない。もちろん義父も素直に反省している様に見える。
見えるでは困るのだが。

今回は命に別状もないし救急車も使わなかったからニュースに名前は出ないかもと言われる。
名前が出るか出ないかは新聞、メディア側の判断らしい。

一通り聞き込みが終わるとそれ以上の手続きは無くもう帰っていいとの事。
え?サインとかないの?
意外とあっさりしている。

ただ最後に、
「今回の救助に掛かった費用は後程計算し請求書をお送りさせて頂きます」
ま、そりゃそうだ。
警察の救助隊×5名
民間の救助隊×5名
保険料や交通費
ロープ等消耗品


伊那の親戚も到着。
本来ならどこかでお茶でもしたいが歩く事がままならないので東京に戻る事に。
駐車場の車は親戚が取りに行ってくれるとの事で一安心。

14:00
東京に向けて出発。

諏訪湖を過ぎた辺りで大変な事に気ずく。
昨日慌てて出荷したpac-03にウエストベルトを付け忘れた事に気ずいたのです!!!
ウエストパッドの有無はたまにやってしまうがベルト自体付け忘れるなんて初めてのミス。
僕も冷静を装っていた様で慌てていたわけです。
幸いお客さんが寛大な方で良かったです(汗

車の中では色々と文句を言う。
トイレに寄るのにヒーヒー言う義父に母は捻挫ごときでオーバーなのよ!叱りつける。
二日後に予約した鮨屋に行くか行かないかで口論している。
そんなの行ける状況に無いのに(笑

東京に帰って分かった事だが、義父は両足首骨折。しかも折れてから2時間も山道を歩いたので
複雑な事になっているらしい。両足とも手術が必要。
膝は半月板が割れたけど幸いなことにこちらは手術の必要なし。

全治3ヶ月。
7月下旬まで入院。

人間は足首が折れても2時間も歩ける事に驚かされる。
いや、単に義父異常なのかも知れない。

入院のお伴に渡した「脱出記」
自分の生還などシベリアからインドに向けて歩いて生還した男達に比べたら屁みたいなもんだと
思ってもらいたくて渡した「脱出記」は未だ読んでくれてないらしい。
この本は同級生の父親が翻訳していてもらった本だけど実話だけあって読み応え十分。

今回は遭難した家族の事を書きたかったので本人の話はあえて書いてませんが
ルートを間違えた事に気ずきながら進み雪渓で滑落。アイゼンはあったけど短い距離だから面倒で付けなかったなど、予防出来た事故でもあります。
幸いなことにツェルト以外の装備はちゃんと持っていた事が不幸中の幸いだった様です。
雨の中、沢に落ちダウンが濡れてしまう不運もあったが低体温症にならなかったのは傘がの力が大きかった様です。
携帯が通じたから良かったものの登山届を出していなかったので携帯が通じなかったら捜索は難航したでしょう。

義父はワンゲル出身で、北アルプスを繋いで歩いたり、海外に行ったり、ジャンに何度も行くなどそれなりに経験のある人ですがたとえ簡単なルートでも登山届をだす、道に迷ったら戻る、アイゼンを付ける。
基本が一番重要なんですね。
皆さん!人のふり見て我ふり直せです。
この事が少しでも皆さんの役に立てばと思い書きました。

最後に請求書。
高いと思うか安いと思うか(笑)

家族が遭難したら_f0251840_110414.jpg

家族が遭難したら_f0251840_111887.jpg

by mountainneberland | 2015-07-08 09:00 | その他


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